DNAはどう複製される?半保存的複製のしくみ

DNAの2本鎖が分かれ、それぞれを鋳型に新しい鎖がつくられる流れを示す図 生物基礎
古い2本の鎖を鋳型として相補的な新しい鎖がつくられる

細胞が分裂しても遺伝情報が受け継がれるのは、分裂前にDNAが複製されるからです。DNAの2本鎖はそれぞれが鋳型となり、塩基の相補性を利用して新しい鎖をつくります。鋳型とは、新しい鎖の塩基配列を決める「手本」となる、もとのDNA鎖のことです。複製後の鎖の由来や本数まで、図で確かめます。

ビオップ

DNAを増やすって、長い分子をそのままコピー機に入れるの?

わや先生

DNA自身の2本の鎖が、新しい鎖をつくるための鋳型になります。鎖を分け、それぞれに相補的な塩基を並べることで、同じ情報をもつDNAを二つつくります。

この記事でわかること

この記事のゴール

  • DNAの複製を鋳型と相補性に結びつけて説明できる
  • 複製後のDNAの塩基配列を求められる
  • 半保存的複製の「何が半分保存されるのか」を説明できる
  • メセルソンとスタールの実験を、同位体と遠心分離に結びつけて説明できる
  • n回複製後の重いDNA・中間DNA・軽いDNAの比を求められる
この記事の位置づけ

前の記事で学んだA–T、G–Cの相補性を使って、DNAが増える概要を学びます。複製に関わる酵素や先行鎖・遅延鎖などの詳しいしくみは「生物」で扱います。

まず結論

複製の基本

DNAの2本鎖が分かれ、それぞれの鎖を鋳型として相補的な新しい鎖がつくられます。その結果、通常は同じ塩基配列をもつDNAが2分子できます。

DNAの2本鎖が分かれ、それぞれを鋳型に新しい鎖がつくられる複製の流れを示す図
図1 DNA複製では、2本の古い鎖が分かれ、それぞれを鋳型に相補的な新しい鎖がつくられる

DNA複製は3段階でつかむ

1.2本の鎖が分かれる

複製の出発点では、DNAの2本鎖がほどけ、塩基対の結びつきが外れます。すると、それまで内側にあった塩基が並んだ2本の鎖が、それぞれ露出します。

2.各鎖を鋳型に新しい鎖がつくられる

細胞内にあるヌクレオチドが、AにはT、TにはA、GにはC、CにはGという相補性に従って並びます。

たとえば鋳型となる部分がA–C–G–Tなら、新しくつくられる側はT–G–C–Aです。相補性があるため、鋳型の塩基配列から新しい鎖の配列が決まります。

3.二つの2本鎖DNAができる

もとの2本の鎖のそれぞれに新しい鎖が組み合わさり、2本鎖DNAが2分子できます。複製が正確に行われれば、二つのDNAはもとのDNAと同じ遺伝情報をもちます。

「半保存的」とは何が保存されることか

DNAの複製は半保存的複製と呼ばれます。複製後の一つのDNA分子に注目すると、2本の鎖のうち1本は複製前からあった鎖、もう1本は新しくつくられた鎖です。

つまり、もとのDNA分子が形のまま半分に切り分けられるという意味ではありません。「もとの2本鎖のうち1本ずつが、複製後の各DNAに保存される」という意味です。

複製後のDNAが古い鎖1本と新しい鎖1本からなる半保存的複製を示す図
図2 複製後の各DNAは、古い鎖1本と新しい鎖1本を含む
二つの誤解に注意

  • 古い鎖どうしのDNAと、新しい鎖どうしのDNAができるわけではない
  • 古い鎖と新しい鎖が細切れに混ざった一本の鎖ができるわけではない

半保存的複製を確かめたメセルソンとスタールの実験

DNAが半保存的に複製されることは、1958年にマシュー・メセルソンとフランクリン・スタールが大腸菌を使って確かめました。ポイントは、古いDNA鎖と新しいDNA鎖を窒素の重さの違いによって見分けたことです。

同位体とは何か

同位体とは、陽子数が同じで、中性子数が異なる原子どうしのことです。陽子数が同じなので同じ元素ですが、中性子数が異なるため質量が異なります。

実験で使った二つの窒素

  • 14N(軽い窒素):陽子7個、中性子7個
  • 15N(重い窒素):陽子7個、中性子8個

15Nは放射性同位体ではなく、安定同位体です。

DNAの塩基には窒素が含まれます。大腸菌を15Nを含む培地で何世代も育てると、DNAを構成する窒素が15Nになり、通常の14Nを含むDNAより密度の大きい「重いDNA」になります。

遠心分離でDNAを密度ごとに分ける

遠心分離とは、試料を高速で回転させ、成分の密度などの違いを利用して分ける方法です。この実験では、塩化セシウム溶液を用いた密度勾配遠心法によってDNAを分離しました。

高速回転によって試験管内に、上ほど密度が小さく、下ほど密度が大きい勾配ができます。DNAは、自分の密度と周囲の溶液の密度がつり合う位置に集まり、帯をつくります。そのため、軽いDNAは上側、重いDNAは下側、両者の中間の密度をもつDNAはその間に現れます。

塩化セシウム溶液を高速回転させ、軽いDNA、中間DNA、重いDNAが密度の等しい位置に帯をつくる密度勾配遠心分離の図
図3 密度勾配遠心分離では、軽いDNAは上側、中間DNAは中央、重いDNAは下側に帯をつくる
遠心分離の読み方

単に「重いものほど速く沈む」と考えるのではなく、DNAが自分と同じ密度の位置に帯をつくると理解しましょう。この実験で比較するのは、2本鎖DNA分子全体の密度です。

実験の手順

  1. 大腸菌を15Nを含む培地で何世代も育て、2本の鎖がともに15Nを含む重いDNAをつくらせる。
  2. その大腸菌を、通常の14Nを含む培地へ移す。
  3. 移した後に新しく合成されるDNA鎖には、14Nが取り込まれる。
  4. 複製回数ごとに大腸菌からDNAを取り出し、密度勾配遠心法で帯の位置を調べる。

1回目と2回目の結果から何が分かるか

複製回数 観察された帯 DNAの組合せ 判断できること
0回 重い帯だけ 15N鎖+15N鎖 実験開始時のDNA
1回 中間の帯だけ 15N鎖+14N鎖 重い帯と軽い帯に分かれる保存的複製を否定できる
2回 中間の帯+軽い帯 15N鎖+14N鎖、および14N鎖+14N鎖 軽い側へ移った中間帯が1本だけになる分散的複製を否定できる
軽い窒素の培地へ移した後のDNAの帯

1回目の複製後には、すべてのDNAが「古い15N鎖1本+新しい14N鎖1本」になるため、中間の帯だけが現れます。2回目には、中間DNAから「中間DNA」と「軽いDNA」が一つずつ生じるため、二つの帯が現れます。この結果が、半保存的複製の予想と一致しました。

n回複製後の比まで一般化する

ここからは、最初に重いDNAが1分子あり、14N培地へ移してからn回の複製が完了した時点を考えます。DNA分子の総数は、複製のたびに2倍になるので2n分子です。

最初の重いDNAに含まれていた15N鎖は2本です。半保存的複製では、この2本はなくならず、それぞれ別のDNA分子に1本ずつ残り続けます。そのため、n≧1では中間DNAは常に2分子です。それ以外は軽いDNAになります。

n回複製後の比(n≧1)

分子数は、重いDNAが0分子、中間DNAが2分子、軽いDNAが2n−2分子です。したがって、

重いDNA:中間DNA:軽いDNA
=0:2:(2n−2)
=0:1:(2n−1−1)

複製回数 総分子数 重い:中間:軽い
0回 1 1:0:0
1回 2 0:2:0=0:1:0
2回 4 0:2:2=0:1:1
3回 8 0:2:6=0:1:3
4回 16 0:2:14=0:1:7
n回(n≧1) 2n 0:2:(2n−2)=0:1:(2n−1−1)
重いDNA・中間DNA・軽いDNAの分子数の比
比を求めるときの注意

  • 「n回目の途中」ではなく、n回の複製が完了した後を数える。
  • 比べる対象は2本鎖DNA分子であり、1本鎖の本数ではない。
  • n=0だけは複製前なので、n≧1の式を当てはめない。
  • 最初に重いDNAがm分子なら、n回後の分子数は重い0、中間2m、軽いm(2n−2)となる。共通因数mで割ると、比は同じく0:2:(2n−2)になる。
ビオップ

1個のDNAが2個になるなら、新しくできる鎖は2本? それとも4本?

わや先生

新しい鎖は2本です。複製後は2本鎖DNAが2分子なので鎖は合計4本ですが、そのうち古い鎖が2本、新しい鎖が2本です。

DNA分子と鎖を分けて数える

複製の資料問題では、「2本鎖DNAの分子数」と「1本鎖の本数」が混ざりやすいので、最初に数える単位を確認します。

数えるもの 複製前 1回複製後
2本鎖DNA分子 1分子 2分子
鎖の総数 2本 4本
古い鎖 2本 2本
新しい鎖 0本 2本
1分子の2本鎖DNAを1回複製した場合

古い鎖は鋳型として使われてもなくなりません。新しい鎖だけが加わるため、古い鎖の本数は2本のまま、鎖の総数が4本になります。

標識ヌクレオチドを使った資料を読む

メセルソンとスタールの実験と同じように、古い鎖と新しい鎖を目印で区別する問題を考えます。新しくDNAへ取り込まれたヌクレオチドだけに目印を付けたとします。3分子の2本鎖DNAを1回だけ複製すると、複製後は6分子の2本鎖DNAになります。

  • もとの鎖:3分子×2本=6本。目印なし
  • 新しい鎖:新たに6本。すべて目印あり
  • 複製後のDNA:6分子すべてが、目印なし1本+目印あり1本
標識ヌクレオチドを用いた1回のDNA複製で生じる分子と鎖の本数を示す図
図4 新しい鎖だけを標識すると、1回の複製後はすべてのDNA分子が標識鎖を1本含む
数える順番

  1. 複製前の2本鎖DNA分子数を確認する
  2. 1回複製後の分子数を2倍にする
  3. 1分子に2本の鎖があることを確認する
  4. 古い鎖と新しい鎖を色や標識で分ける

複製は細胞分裂より前に起こる

DNAの複製は、細胞が二つに分かれている最中ではなく、分裂に入る前の間期に行われます。先にDNAを複製し、その後、複製された遺伝情報を二つの細胞へ分配します。

どの時期にDNA量が増え、いつ二つの細胞へ分かれるかは、次の細胞周期の記事でグラフとともに整理します。

確認問題

問1 DNA複製で、もとの2本の鎖はどのような役割をしますか。
解答:それぞれが、新しい相補的な鎖をつくるための鋳型になります。
問2 鋳型の塩基配列がT–A–C–Gのとき、新しい鎖の塩基配列を答えてください。
解答:A–T–G–Cです。TにはA、AにはT、CにはG、GにはCが対応します。
問3 半保存的複製の「半分」が指すものを説明してください。
解答例:複製後の各DNAに、複製前から存在した鎖が2本のうち1本ずつ保存されることです。
問4 2分子の2本鎖DNAを1回複製しました。複製後のDNA分子数、古い鎖、新しい鎖はそれぞれいくつですか。
解答:DNAは4分子、古い鎖は4本、新しい鎖は4本です。
問5 新しいヌクレオチドだけを標識して1回複製したとき、標識を含まない2本鎖DNAはできますか。
解答:できません。複製後の各DNAは新しい標識鎖を1本含みます。
問6 DNA複製が正確に行われるうえで、塩基の相補性が重要なのはなぜですか。
解答例:鋳型となる鎖の各塩基に結びつく相手が決まっているため、もとの情報に対応した新しい鎖をつくれるからです。
問7 メセルソンとスタールの実験で、15N培地から14N培地へ移した後、1回目の複製で中間の帯だけが現れるのはなぜですか。
解答例:複製後のすべてのDNAが、15Nを含む古い鎖1本と、14Nを含む新しい鎖1本からなるためです。
問8 最初に重いDNAが1分子あり、14N培地で3回複製したとき、重いDNA・中間DNA・軽いDNAの分子数の比を答えてください。
解答:0:2:6=0:1:3です。総数は23=8分子で、重いDNAは0分子、中間DNAは2分子、軽いDNAは6分子です。

まとめ

この記事のまとめ

  • DNA複製では、2本鎖が分かれ、それぞれが鋳型(新しい鎖の塩基配列を決める手本)になる。
  • 相補性に従って新しいヌクレオチドが並び、通常は同じ塩基配列をもつDNAが2分子できる。
  • 半保存的複製では、各DNAに古い鎖1本と新しい鎖1本が含まれる。
  • 同位体は、陽子数が同じで中性子数が異なるため、同じ元素で質量が異なる原子どうしである。
  • メセルソンとスタールの実験では、15Nと14NでDNAを区別し、密度勾配遠心法で半保存的複製を確かめた。
  • n回複製後(n≧1)の重いDNA:中間DNA:軽いDNAの比は、0:1:(2n−1−1)である。
  • 複製は細胞分裂に入る前の間期に行われる。
わや先生

DNAはコピー機を使わず、何を手がかりに増えましたか。

ビオップ

もとの2本の鎖がそれぞれ鋳型、つまり新しい鎖をつくる手本になる! 15Nの古い鎖は2本だけ残り続けるから、n回後の比は0:2:(2n−2)になるんだね。

Plus|実験結果だけでなく「予想」と比べる

教科書から一歩先へ

この実験の価値は、帯を観察したことだけではありません。保存的複製・半保存的複製・分散的複製のそれぞれについて、1回目と2回目にどの帯が現れるかをあらかじめ予想し、実際の結果と比較した点にあります。

科学では、結果を見てから説明を考えるだけでなく、仮説から予想される結果を先に示し、観察と合わない仮説を除いていくことが重要です。

原著論文:Meselson & Stahl(1958), The Replication of DNA in Escherichia coli

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