動物がたくさんいれば、生物多様性が高いと言えるのでしょうか。種数と個体数の違い、食物網を通じた間接的な影響、かく乱後の変化を整理します。調査や実験の資料から、どこまで結論を言えるかも練習します。
なんでなんで?! 海藻を食べないラッコが減ると、海藻まで減ってしまうことがあるの?
直接食べる相手だけでなく、その相手が何を食べるかまでたどってみましょう。
この記事でわかること
- 生物多様性の三つの見方と、種数・個体数の違い
- 間接効果とキーストーン種の意味
- 生態系の変動と、かく乱後の回復を資料から考えること
食物網の読み方を使い、一種類の変化が周囲へどう伝わるか考えます。身近な調査でも、数え方と比較条件をそろえることが大切です。
まず結論|生物の種類と、つながりの両方を見る
生物多様性は、生物のさまざまな違いや、それらのつながりを捉える考え方です。生態系の多様性・種の多様性・遺伝子の多様性という三つの視点から整理できます。単に生物の総個体数が多いことではありません。

森林・河川・干潟など異なる生態系があることが、生態系の多様性です。それぞれの場所に植物・動物・菌類など異なる種類がいることが、種の多様性です。同じ種の中でも遺伝的な違いがあることが、遺伝子の多様性です。姿の違いを見つけても、すべて遺伝子の違いが原因とは限らない点には注意しましょう。
「何種類いるか」と「何個体いるか」を分ける
種の多様性を調べる入口は種数です。種数は種類の数、個体数は一個体ずつ数えた数です。タンポポが100個体あっても、すべて同じ種なら種数は1です。種ごとの個体数の偏りも、生物の集まりの特徴になります。
| 種 | 地点Aの個体数 | 地点Bの個体数 |
|---|---|---|
| 甲種 | 20 | 80 |
| 乙種 | 20 | 0 |
| 丙種 | 20 | 0 |
| 丁種 | 20 | 0 |
総個体数はどちらも80ですが、Aの種数は4、Bは1です。「80個体で同じだから、種類の豊かさも同じ」とは言えません。逆に、種数だけが同じでも、一種類が大半を占める集まりと、各種が同程度いる集まりは違います。
比較するには、調査面積、時間、季節、天候、道具や方法などをできるだけそろえます。同じ広さの区画を複数調べれば、たまたま選んだ場所だけの特徴に引きずられにくくなります。見つからなかった種も、本当にいないとは限りません。夜行性や土中の生物など、方法によって見落とし方が変わります。
間接効果|直接関わらない相手にも影響が届く
ある生物が別の生物を介して、さらに別の生物へ影響することを間接効果といいます。ラッコ・ウニ・海藻の関係が一例です。ラッコはウニを食べ、ウニは海藻を食べます。

他の条件が同じなら、ラッコが減ることでウニが食べられる機会が減り、ウニが増えやすくなります。その結果、海藻が多く食べられ、海藻が減る可能性があります。ラッコから海藻への影響は、ウニを介した間接効果です。
ただし、実際の海藻の量には水温や栄養塩、ほかの植食動物なども関わります。「ラッコが減った場所で海藻も減った」という観察だけでは、原因をラッコだけに決められません。食物関係から予測することと、原因を実験で確かめることは分けて考えます。
キーストーン種|数が多い種とは限らない
生物の集まりの構造や多様性の維持に、その量に比べて大きな影響を及ぼす種をキーストーン種と呼びます。ラッコのような捕食者が例になりますが、いつでも「最上位の捕食者」という言葉と同じ意味ではありません。
例えば、ある捕食者が競争に強い生物を食べることで、一種類だけが場所を占め尽くすのを抑え、ほかの生物も暮らせる場合があります。その捕食者を取り除くと、食べられていた生物は増えても、全体の種数は減ることがあります。捕食者がいると、いつでも種類が減るわけではないのです。
食べられる生物は減るのに、全体では種類が残りやすくなることもあるんだね?
そうです。特定の生物の個体数と、全体の種数を分けて見ると、この関係を説明できます。
バランスは「全く変化しないこと」ではない
生態系では、個体数や生物同士の関係が季節や年によって変動しています。変動が一定の範囲に収まったり、変化の後に回復したりする場合があります。このような動きも含めて、生態系のバランスを捉えます。
台風や洪水、火災、伐採、汚染などによって、生態系の構造や環境が変えられることをかく乱(攪乱)といいます。自然に起こるものと、人間活動によるものがあります。小さなかく乱が新たな生育場所をつくることもあり、かく乱をすべて同じ影響と考えることはできません。

図3では横軸が時間、縦軸がある種の個体数です。左は一度減った後にもとの範囲へ戻っています。右は観察した期間内には戻っていません。同じ「一度減少した」という事実でも、その後の経過は異なります。
生物の種類やつながりが多いと、ある種が減っても別の種が働きを一部補い、変化の影響が和らぐ場合があります。ただし、多様であれば、どれほど大きなかく乱にも必ず耐えられるという意味ではありません。かく乱の大きさや継続時間、影響を受ける生物を合わせて考えます。
確認問題
当サイト独自の問題です。選択式は最も適切なものを一つ選んでください。
問1 種類と個体数を分けて数える
| 種 | A | B |
|---|---|---|
| 甲 | 20 | 80 |
| 乙 | 20 | 0 |
| 丙 | 20 | 0 |
| 丁 | 20 | 0 |
A・Bそれぞれの総個体数と種数を答えてください。「Bは甲種が多いので、種数も多い」と言えますか。
問1の解答・考え方
正解:Aは80個体・4種、Bは80個体・1種。Bで甲種が多いことは、一種類の個体数が多いことです。種数が多いとは言えません。
問2 間接効果の経路を説明する

ラッコが減ると海藻が減る可能性がある理由を、ウニを含めて説明してください。
問2の解答・考え方
解答例:ラッコに食べられるウニが減りにくくなって増加し、ウニに食べられる海藻が増えるため、海藻の量が減る可能性がある。
問3 除去実験の結果を読む
| 区画 | 終了時の貝Xの被覆率 | 終了時の種数 |
|---|---|---|
| 捕食者を残した区画 | 25% | 10 |
| 捕食者だけを除いた区画 | 85% | 4 |
貝Xは場所をめぐる競争に強く、この捕食者に食べられるとします。結果と整合する説明を選んでください。
- 捕食者がいると、どの区画でも種数は必ず減る。
- 捕食者は貝Xの増加を抑え、ほかの種が残ることに関わっていた可能性がある。
- 貝Xの個体数は正確に3.4倍になった。
- 貝Xの被覆率が高いほど、必ず種数も多い。
問3の解答・考え方
正解:2。捕食者の除去に伴って貝Xが場所を占める割合が増え、種数が減りました。捕食が競争の強い種を抑え、多様な種の共存に関わるという説明と整合します。実際の研究では区画を複数設けて再現性も確かめます。
問4 グラフの範囲を越えて断定しない

右のグラフから言えることはどれですか。
- この生態系の全種類が絶滅した。
- 将来も絶対に回復しない。
- 示された期間内では、もとの変動範囲へ戻っていない。
- 個体数が変化したので、右の場所だけが生態系ではなくなった。
問4の解答・考え方
正解:3。この期間・この種類の個体数について言えます。将来の回復の有無や全生物の状態までは示されていません。
問5 調査を公平に比べる
林Aでは昼に10分、林Bでは夜に60分、昆虫を探しました。Bで多くの種を見つけたので、Bの方が種の多様性が高いと結論しました。比較を改善するための方法を二つ述べてください。
問5の解答・考え方
解答例:調査する時間帯と長さをそろえる。同じ面積と道具で複数回・複数区画を調べる。見つかった種数の差に、発見しやすさの違いが混ざるのを減らします。
まとめ
- 生物多様性は、生態系・種・遺伝子の三つの視点から見る。
- 種数と個体数は異なる。比較には調査条件をそろえる。
- 食物網を通じて、直接食べない相手にも間接効果が及ぶ。
- キーストーン種は、その量に比べて大きな影響をもつ。
- バランスは静止ではない。かく乱後の経過を追い、資料から言える範囲を見極める。
生物同士のつながりと、調べた資料の意味を合わせて考えられました。
ラッコが海藻を食べなくても、間にウニがいるから影響が届くんだね。一種類の数と、全体の種類の多さも分けて見ないといけない!
Plus|同じ場所を、長く観察する意味
一年だけの調査では、その年が特別に暑かったのか、長期的に変化しているのかを区別しづらい場合があります。同じ方法で記録を続けると、短い変動に埋もれていた傾向が見えてきます。学校の周りでも、場所・時刻・方法を記録しておくと、後から比べられる観察になります。
参考資料
本文の用語・説明を確認するために参照した資料です。図解と確認問題は当サイトで作成しています。
- 文部科学省「高等学校学習指導要領解説 理科編 理数編」:生物基礎「生態系とその保全」の学習範囲。
- 環境省「生物多様性とはなにか?」:生物多様性の三つの視点と危機。
- 環境省「ネイチャーポジティブポータル 用語集」:生態系・生物多様性・生態系サービスなどの用語。
- 相模原市「生物多様性クイズ 中級」:ラッコ・ウニ・海藻を介した関係(問題は転載していません)。


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