川に生活排水が流れ込むと、水中の生物にはどのような影響があるのでしょうか。有機物を分解する微生物と溶存酸素の関係、自然浄化の限界、富栄養化を整理し、川の上流から下流へ変化する資料を読んでいきます。
なんでなんで?! 微生物が汚れを分解してくれるなら、排水を流しても魚は困らないんじゃないの?
分解が進むとき、水中の酸素がどう使われるかを考えてみましょう。浄化する働きにも限界があります。
この記事でわかること
- 有機物の分解と溶存酸素の減少が結び付く理由
- 自然浄化と富栄養化の違い
- 酸素量のグラフとBODの資料を読むこと
分解者と呼吸の学習を、河川や湖の環境問題へつなぎます。水の見た目だけでなく、酸素や栄養塩、生物の変化を合わせて考えましょう。
まず結論|有機物の分解には酸素消費が伴う
生活排水には、食べ物の残りなどに由来する有機物が含まれます。水中の微生物がその有機物を利用すると、分解とともに呼吸が活発になり、酸素が消費されます。水に溶けている酸素を溶存酸素といいます。資料ではDOと表されることもあります。

微生物が利用しやすい有機物が大量に入ると、酸素の消費が供給を上回り、魚や水生昆虫などが呼吸に使える酸素が不足することがあります。微生物がいること自体が悪いのではなく、入ってくる量と、処理・回復する働きの釣り合いが問題になります。
ここでの酸素は、水分子を構成する酸素ではありません。魚は水そのものを分解して酸素を得ているのではなく、水に溶けた酸素を取り入れています。水がたくさんあっても、溶存酸素が不足すれば生息しにくくなります。
自然浄化|生物の働きだけではない
水域で汚濁物質が減少し、水質が改善していく自然の働きを自然浄化といいます。微生物による有機物の分解のほか、粒子の沈降、希釈なども関わります。水面から大気中の酸素が溶け込むことは、消費された酸素の回復に役立ちます。
分解されやすい有機物が減ってくると、呼吸による酸素消費も小さくなり、酸素の供給によって溶存酸素量が回復しやすくなります。ただし、水温、流速、水量、新たな排水の流入などで経過は変わります。すべての川が同じ距離で元に戻るわけではありません。
薄まったことと、物質が分解・除去されたことは別です。また、底に沈んだ有機物がそこで分解され、底付近の酸素を消費することもあります。「見えなくなったから、影響もなくなった」とは限りません。
グラフを読む|流入地点と酸素が最も少ない地点
図2は、排水の流入前後を考えるために作成した仮想データです。横軸は時間ではなく、上流から下流へ並べた調査地点です。縦軸のmg/Lは、水1L当たりに溶けている酸素の質量を表します。

排水はAとBの間で流入し、最小値はCの2mg/Lです。流入した瞬間だけでなく、有機物が運ばれながら分解される下流でも酸素消費が続くと考えられます。D・Eでは増加していますが、Eの7mg/LはAの8mg/Lには達していません。
このグラフだけで「どの魚が何匹死んだか」や「有害物質がなくなったか」は分かりません。生物の酸素への耐え方は種類や水温などで違い、酸素以外の汚濁物質もあるためです。測った項目と、そこから言えることを区別しましょう。
BOD|今ある酸素量ではなく、消費される酸素量
生物化学的酸素要求量(BOD)は、水中の微生物が有機物を分解するときに消費する酸素量を、一定の条件で測ったものです。一般的な測定では20℃で5日間置き、その間の酸素の減少量から求めます。値が大きいほど、微生物に分解されやすい有機物による汚濁が大きい目安になります。
DOは「水に溶けている酸素」、BODは「分解に伴って消費される酸素」です。同じmg/Lという単位でも意味は異なります。「BODが高いから魚が使える酸素が多い」と読むのは逆です。実際の測定には希釈などの操作があり、問題では提示された条件に従って計算します。
排水の流入が多すぎたり長く続いたりすると、浄化・回復が追いつきません。排水を処理し、流入する有機物や栄養塩を減らすことが重要です。
富栄養化|窒素・リンが増えすぎると
湖や内湾などで窒素・リンなどの栄養塩が増え、植物プランクトンなどが増殖しやすくなる状態を富栄養化といいます。生産者である植物プランクトンにとって、これらは必要な栄養ですが、多量に流入すると水質の悪化につながります。

増殖した植物プランクトンの死骸などを微生物が分解すると、酸素が消費されます。生物自身の呼吸も酸素を使います。水が混ざりにくい底層では酸素が補給されにくく、酸素不足が起こりやすくなります。
湖などで水面が緑色になるアオコや、海で起こる赤潮は、プランクトンの大量増殖に関係します。ただし、すべての種類が毒をつくるわけではありません。被害には酸素不足や有毒な種類の増殖など複数のしくみが関わり、見た目だけで原因を決めないことが大切です。
植物プランクトンは光合成をするのに、増えると酸素不足になることもあるの?
光合成による供給だけでなく、呼吸と死骸の分解による消費もあるからです。どこで、いつ測るかも大切です。
生物濃縮は、富栄養化とは別の現象
ある物質が生物の体内に取り込まれ、排出・分解されにくいため、周囲の環境より高い濃度で蓄積する現象を生物濃縮といいます。物質の性質によっては、食物連鎖を通じて上位の生物ほど高濃度になることもあります。メチル水銀などが例です。
富栄養化は栄養塩の増加と生物の増殖、生物濃縮は物質の体内への蓄積に注目した言葉です。すべての物質が同じように濃縮されるわけではなく、溶存酸素が回復しても、それだけで化学物質の汚染が解消したとは言えません。
確認問題
当サイト独自の問題です。選択式は最も適切なものを一つ選んでください。
問1 流入後の変化を読む

溶存酸素が最も少ない地点と、Aからその地点までの減少量を答えてください。
問1の解答・考え方
正解:C、6mg/L。8−2=6です。Cは流入地点より下流にあります。横軸を経過時間と取り違えないようにします。
問2 酸素減少の理由を考える
生活排水中の分解されやすい有機物が増えたとき、溶存酸素が減る理由を選んでください。
- 有機物があると、酸素は必ず水分子へ変化して消える。
- 微生物による分解が進み、呼吸に伴う酸素消費が増える。
- 微生物は呼吸をしないが、魚が急に光合成を始める。
- 水量さえ同じなら、溶存酸素量は変わらない。
問2の解答・考え方
正解:2。微生物が有機物を利用するときの呼吸で酸素が消費されます。水があることと酸素が十分に溶けていることは別です。
問3 BODの資料を扱う
| 試料 | 開始時のDO | 5日後のDO |
|---|---|---|
| P | 8mg/L | 6mg/L |
| Q | 8mg/L | 3mg/L |
酸素の減少は微生物による分解に伴う消費だけによるとします。P・QのBODを求め、分解されやすい有機物による汚濁が大きいと考えられる方を選んでください。
問3の解答・考え方
正解:Pは2mg/L、Qは5mg/L。Qの方が大きい。それぞれ8−6、8−3で求めます。残っている酸素量そのものをBODとするのではありません。
問4 富栄養化の因果をたどる

「窒素・リンが増えると、その物質が直接魚の酸素を食べる」という説明を修正してください。
問4の解答・考え方
解答例:窒素・リンの増加で植物プランクトンが増殖し、その死骸などを微生物が分解する際に酸素が消費される。生物の呼吸も酸素を使うため、酸素不足が起こることがある。
問5 回復したと言える範囲
排水流入後の下流でDOが流入前と同じ値に戻りました。この事実だけから判断できることはどれですか。
- すべての化学物質が分解されてなくなった。
- 生物の種構成も必ず流入前と同じになった。
- 測定した時点の溶存酸素量は流入前と同じだった。
- 今後どれだけ排水が入っても影響しない。
問5の解答・考え方
正解:3。測定した時点の溶存酸素についての比較です。種構成や別の汚濁物質は別途調べる必要があります。
まとめ
- 有機物を分解する微生物の呼吸は、溶存酸素を消費する。
- 自然浄化には限界があり、流入する汚濁物質を減らす必要がある。
- DOは溶けている酸素量、BODは一定条件で消費される酸素量。
- 富栄養化は栄養塩の増加と生物の増殖に関係し、酸素不足などにつながる。
- 生物濃縮は体内への物質の蓄積。酸素量だけで水環境全体の安全性は判断できない。
浄化する働きと、酸素不足が起こる理由を一緒に説明できました。
微生物が分解してくれても、そのとき酸素を使うんだね。川に任せきりにせず、入る汚れを減らすことが大事なんだ!
Plus|昼と夜で水中の酸素量は違う?
光が当たる時間には、水草や植物プランクトンの光合成が酸素を供給します。一方、呼吸は昼夜を通じて行われます。そのため、一回の昼の測定だけでは、夜間の酸素不足を見落とす場合があります。水質を調べるときは、地点だけでなく、時刻・深さ・水温も記録すると変化の理由を考えやすくなります。
参考資料
本文の用語・説明を確認するために参照した資料です。図解と確認問題は当サイトで作成しています。
- 文部科学省「高等学校学習指導要領解説 理科編 理数編」:生物基礎「生態系とその保全」の学習範囲。
- 環境省「BODって何?」:微生物の分解と酸素消費、BODの意味。
- 国立環境研究所「富栄養化と有毒アオコ」:栄養塩・プランクトンの増殖と水環境への影響。
- 国立環境研究所「身近な海への気候変動の影響は?」:有機物の分解と溶存酸素の消費。
- 国立水俣病総合研究センター「水俣病と水銀について」:メチル水銀の生物濃縮。


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