生物学でいう呼吸は、肺で空気を出し入れすることだけではありません。細胞は有機物を段階的に分解し、その過程で得たエネルギーを使ってATPを合成します。植物も細菌も行う「細胞の呼吸」を、物質・場所・エネルギーの流れから整理します。
なんでなんで?! 植物は肺で息をしないから、呼吸もしないの?
植物の細胞も呼吸します。空気の出し入れと、細胞内で有機物からエネルギーを取り出す反応を分けて考えましょう。
この記事でわかること
- 日常語の呼吸と細胞呼吸を区別できる
- 呼吸の材料・生成物・場所を説明できる
- 呼吸とATP合成の関係を説明できる
- 植物も昼夜を通して呼吸すると説明できる
これまでに学んだ異化・ATP・酵素を、呼吸という一つの過程としてつなぎます。反応経路の名称や詳細は「生物」で扱い、ここでは生物基礎に必要な全体像を中心にします。
まず結論
呼吸は、有機物を段階的に分解し、その過程で得られるエネルギーの一部を使ってATPを合成する異化です。酸素を用いる呼吸では、最終的に二酸化炭素と水が生じます。

「息をすること」と「細胞の呼吸」は同じではない
ヒトが肺で酸素を取り入れ、二酸化炭素を排出する働きはガス交換です。取り入れた酸素は血液で細胞へ運ばれ、細胞呼吸に使われます。
つまり、肺でのガス交換と細胞呼吸はつながっていますが、同じ現象ではありません。
| 比較 | ガス交換 | 細胞呼吸 |
|---|---|---|
| 主な内容 | 外界と体内で酸素・二酸化炭素を交換 | 有機物を分解しATP合成へつなぐ |
| ヒトでの主な場所 | 肺 | 各細胞の細胞質基質・ミトコンドリア |
| 植物 | 気孔などを介して気体が出入り | 植物細胞でも行われる |
呼吸では何が変化するのか
呼吸の代表的な材料として、グルコースを考えます。酸素を用いる呼吸の全体は、次のように表せます。
グルコース+酸素 → 二酸化炭素+水+エネルギー
取り出したエネルギーの一部がATP合成に使われ、一部は熱として放出されます。
化学式で表すと、代表的には次のようになります。
C6H12O6+6O2 → 6CO2+6H2O+エネルギー
この式は、反応全体の材料と生成物をまとめたものです。細胞内では多数の酵素が関わり、何段階もの反応を通して少しずつエネルギーを取り出します。
呼吸はどこで行われるか
真核細胞では、呼吸の最初の段階が細胞質基質で進み、その後の主要な過程がミトコンドリアで進みます。ミトコンドリアは、ATP合成の中心となる細胞小器官です。
ただし、「呼吸はすべてミトコンドリアの中で行われる」と覚えると不正確です。また、細菌などの原核生物はミトコンドリアをもちませんが、細胞質や細胞膜にある仕組みを使って有機物からエネルギーを取り出します。
解糖系、クエン酸回路、電子伝達系といった反応経路は「生物」で詳しく扱います。生物基礎では、細胞質基質とミトコンドリアが関わること、段階的に進むことを押さえます。
呼吸で得たエネルギーをATPへ受け渡す
有機物を分解したときに得られるエネルギーが、すべて一度に熱になってしまえば、細胞は物質合成や運動に利用できません。細胞は、そのエネルギーの一部を使い、ADPとリン酸からATPを合成します。
合成されたATPが分解されると、その反応に伴って物質合成、能動輸送、運動などへエネルギーが受け渡されます。このため、呼吸は単なる有機物の分解ではなく、生命活動を支えるATP供給の中心となります。
植物も昼夜を通して呼吸する
植物は光合成によって有機物を合成します。しかし、つくった有機物を生命活動に利用するには、呼吸によってATPを合成する必要があります。
- 光合成:光が必要で、主に葉緑体をもつ細胞で行われる
- 呼吸:光の有無にかかわらず、植物の生きた細胞で続く
根の細胞は通常、光合成を行いませんが、呼吸は行います。根も物質を吸収したり成長したりするためにATPを必要とするからです。
明るい葉から酸素が出ているときも、呼吸は止まっていないの?
止まっていません。明るいときは光合成と呼吸が同時に進み、外からは両者を差し引いた正味の気体交換が観察されます。
気体の出入りは「正味の量」として観察される
葉が明るい場所で二酸化炭素を吸収していても、呼吸がゼロとは限りません。光合成による二酸化炭素吸収量が、呼吸による放出量を上回れば、外からは正味の吸収として見えます。
一方、暗所では光合成が進まないため、生きた葉では呼吸による二酸化炭素放出が観察されます。共通テストでは、グラフの軸、正負の意味、明暗条件を確認してから判断します。
| 条件 | 光合成 | 呼吸 | 二酸化炭素の正味の出入り |
|---|---|---|---|
| 明所 | 行われる | 行われる | 両者の差。吸収にも放出にもなり得る |
| 暗所 | 行われない | 行われる | 通常は放出 |
確認問題
問1 肺でのガス交換と細胞呼吸の違いを説明してください。
問2 酸素を用いる呼吸の主な材料と生成物を答えてください。
問3 呼吸で取り出したエネルギーの一部は、何の合成に使われますか。
問4 「真核細胞の呼吸は、すべてミトコンドリアだけで進む」という説明を修正してください。
問5 植物の根の細胞が、通常は光合成をしなくても呼吸する理由を答えてください。
問6 明所の葉で二酸化炭素の正味の吸収が観察されました。「呼吸は行われていない」と結論できない理由を答えてください。
まとめ
- 細胞呼吸は、有機物を段階的に分解してATP合成へつなぐ異化である。
- 酸素を用いる呼吸では、グルコースと酸素から二酸化炭素と水が生じる。
- 真核細胞では、呼吸の一部が細胞質基質、その後の主要過程がミトコンドリアで進む。
- 原核生物も、ミトコンドリアをもたないまま異化を行う。
- 植物も昼夜を通して呼吸し、明所の気体交換は光合成と呼吸の差として見える。
植物は肺をもたないので、呼吸しないのでしょうか。
肺でのガス交換とは別なんだね。植物の細胞も有機物を分解し、そのエネルギーでATPを合成する呼吸を昼も夜も続けている!
Plus|発酵では酸素を使わずにATPを得る
発酵は、酸素を使わずに有機物を分解し、ATPを得る代謝です。酵母が行うアルコール発酵ではエタノールと二酸化炭素が、乳酸菌などが行う乳酸発酵では乳酸が生じます。
酸素を用いる呼吸と比べると、有機物から取り出せるエネルギーは少なくなります。詳しい反応経路や、筋肉で乳酸が生じる条件は「生物」で扱います。


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