ホルモンの濃度は、なぜ増え続けたり減り続けたりしないのでしょうか。チロキシンを例に、結果が上流へ影響する負のフィードバックと、濃度資料を因果関係から読む方法を整理します。
なんでなんで?! ホルモンを出し始めたら、ずっと出続けて増えすぎたりしないの? だれが「もう十分」って止めるの?
血液中のホルモン濃度が、その分泌を促した上流の器官へ影響するしくみがあります。高い場合と低い場合を対にして追ってみましょう。
この記事でわかること
- フィードバックと負のフィードバックの意味を説明できる
- 「負」が悪いという意味ではないことを説明できる
- 視床下部・下垂体前葉・甲状腺・チロキシンの関係をたどれる
- ホルモン濃度の増減から、前の段階の分泌変化を推測できる
ホルモンの基本と、神経系・内分泌系の比較を土台に、ホルモンの分泌量が調節される原理を扱います。細胞内のシグナル伝達や遺伝子発現による詳しい制御は扱いません。
まず結論|負のフィードバックは、変化を打ち消す
最終的に生じた物質や作用の結果が、それより前の段階に影響するしくみをフィードバックといいます。その影響が、はじめの変化を打ち消す向きに働くものが負のフィードバックです。

負のフィードバックは、ずれを小さくする
体内外の変化によって、ある値が一定範囲からずれることがあります。調節に関わる器官はその変化に応じ、ずれを小さくする向きの反応を起こします。値が一定範囲へ近づくと、その反応も弱まります。
- 値が一定範囲より高くなる、または低くなる。
- 調節に関わる器官が、その変化に応じる。
- 最初の変化を打ち消す向きの反応が起こる。
- 値が一定範囲へ近づき、調節する反応も弱まる。
負のフィードバックでは、あるホルモンの血中濃度が上がると、そのホルモンを増やす上流の段階が抑えられます。反対に血中濃度が下がると、上流への抑制が弱まり、分泌が増えやすくなります。この両方向の調節によって、濃度は一つの値に固定されるのではなく、一定の範囲内に保たれます。
血中濃度は、ある時点で血液の一定量中に含まれるホルモンの量です。分泌量は、内分泌腺から一定時間に放出される量です。両者は関係しますが同じ値ではありません。この記事では、血中濃度の変化を情報として受け、各器官の分泌量が変化する流れを扱います。
負のフィードバックでは、濃度が高いときには分泌を減らし、低いときには分泌を増やします。どちらも、最初の変化を打ち消す方向へ働く点が共通します。
視床下部・下垂体前葉・甲状腺の三段階で調節される
具体例として、甲状腺から分泌されるチロキシンを考えます。分泌までの流れには、間脳の視床下部、脳下垂体の一部である下垂体前葉、甲状腺が順に関わります。
- 視床下部が甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンを分泌する。
- それを受けた下垂体前葉が甲状腺刺激ホルモンを分泌する。
- 甲状腺刺激ホルモンを受けた甲状腺がチロキシンを分泌する。
分泌されたチロキシンは、標的となる細胞や組織の代謝を促進します。これは三段階の分泌調節の後に起こる作用なので、三段階の中には数えません。

名称が長いときは、「どこから」「何を刺激するホルモンが出るか」を区切って読みます。視床下部から分泌された甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンは、下垂体前葉を刺激して甲状腺刺激ホルモンの分泌を促します。続いて、甲状腺刺激ホルモンが甲状腺を刺激し、チロキシンの分泌を促します。
血中チロキシン濃度が、上流の二か所に影響する
血液中のチロキシン濃度が高くなると、チロキシンが視床下部と下垂体前葉に作用し、それぞれのホルモン分泌を抑制します。上流の二つのホルモンの分泌量が減るため、甲状腺への刺激が弱まり、チロキシンの分泌量が減ります。
反対に、血中チロキシン濃度が低くなると、視床下部と下垂体前葉への抑制が弱まります。上流の二つのホルモンの分泌量が増え、甲状腺への刺激が強まるため、チロキシンの分泌量が増えます。

視床下部や下垂体前葉が「多い」「少ない」と考えるのではありません。細胞が血中チロキシン濃度に応じて反応し、その結果として各ホルモンの分泌量が変化します。
チロキシンが減ったら、抑制も減るんだよね? 「減る」が二つ続くから、結局どうなるか迷子になりそう!
「抑制が弱まる」は、前の段階が働きやすくなるという意味です。チロキシンが低い→抑制が弱まる→甲状腺への刺激が強まる→チロキシンが増える、と矢印で追いましょう。
資料では、最終ホルモンから上流へさかのぼる
フィードバックの資料問題では、次の順で考えると整理できます。
- 最終ホルモンの濃度を確認する:高いか、低いか。
- 戻りの抑制を考える:高ければ抑制が強く、低ければ抑制が弱い。
- 一つ前のホルモンを判断する:抑制が強ければ減り、弱ければ増えやすい。
- 器官の異常が示されたら別に考える:甲状腺が反応できない場合などは、単純な正常ループだけでは判断しない。
確認問題
共通テストを意識したオリジナル問題です。知識の確認だけでなく、模式図・数値資料・実験結果を因果関係から読み取ります。
問1 負のフィードバックの意味
負のフィードバックの説明として最も適切なものを選んでください。
- 最終段階の物質が上流を促進し、はじめの変化をさらに大きくするしくみ。
- 最終段階の物質や作用の結果が上流へ影響し、はじめの変化を打ち消すしくみ。
- 最終段階の物質が上流を抑制し、濃度を常に低下させ続けるしくみ。
- 体内外の変化にかかわらず、ホルモン濃度を一つの値に固定するしくみ。
問1の解答・考え方
正解:2。「負」は悪いという意味ではなく、はじめの変化を打ち消す向きを表します。濃度が低いときには分泌を増やす方向に働くため、常に量を減らすしくみではありません。
問2 模式図から二つのホルモンを判断する
スマートフォンでも図と設問を続けて見られるように、図2を再掲します。

健康な人にチロキシンを投与し、血中チロキシン濃度が一時的に高くなったとします。正常な負のフィードバックが働いたとき、視床下部から分泌されるホルモンと、下垂体前葉から分泌されるホルモンの分泌量は、投与前と比べてどうなると考えられますか。選択肢では、この順に前者・後者と表します。
- 前者は増え、後者も増える。
- 前者は増え、後者は減る。
- 前者は減り、後者は増える。
- 前者は減り、後者も減る。
問2の解答・考え方
正解:4。血中チロキシン濃度が高い→視床下部と下垂体前葉への抑制が強まる→両者から分泌されるホルモンの分泌量がともに減る、とたどります。
問3 相対濃度の表を読む
健康な人の値を1.0としたときの、個体A・Bの血中ホルモン濃度の相対値を示します。相対値は、基準となる値との比で表した値です。例えば0.4は基準の0.4倍、2.4は基準の2.4倍を表します。
| 個体 | 甲状腺刺激ホルモンの相対濃度 | チロキシンの相対濃度 |
|---|---|---|
| 健康な人 | 1.0 | 1.0 |
| A | 2.4 | 0.4 |
| B | 0.4 | 2.3 |
この資料と正常な負のフィードバックの関係から考えられる説明として、最も適切なものを選んでください。
- Aでは上流への抑制が弱まる方向、Bでは上流への抑制が強まる方向の値が示されている。
- A・Bとも、上流への抑制が弱まる方向の値が示されている。
- Aでは上流への抑制が強まる方向、Bでは上流への抑制が弱まる方向の値が示されている。
- この二つの測定値だけで、A・Bそれぞれの異常部位を一つに確定できる。
問3の解答・考え方
正解:1。Aはチロキシンが低い→上流への抑制が弱い→甲状腺刺激ホルモンが増える方向です。Bはチロキシンが高い→上流への抑制が強い→甲状腺刺激ホルモンが減る方向です。ただし、この表だけで変化の原因となった部位まで一つに確定することはできません。
問4 刺激実験の結果を読む
血中チロキシン濃度が低い個体C・Dに、同じ量の甲状腺刺激ホルモンを投与し、60分後まで血中チロキシン濃度を測定しました。値は健康な個体の投与前を1.0とした相対値です。
| 個体 | 投与前のチロキシン | 60分後のチロキシン |
|---|---|---|
| C | 0.4 | 1.2 |
| D | 0.4 | 0.4 |
この実験結果から直接考えられることとして、最も適切なものを選んでください。
- Cの甲状腺は投与した甲状腺刺激ホルモンに反応し、Dでは同じ条件でチロキシン濃度の上昇がみられなかった。
- Cでは、投与したホルモンによって下垂体前葉からの甲状腺刺激ホルモン分泌が必ず増えた。
- Dでは、投与したホルモンが血液中へ入らなかったことが証明された。
- Dの変化の原因となる遺伝子を、この結果だけで一つに特定できる。
問4の解答・考え方
正解:1。Cでは甲状腺刺激ホルモン投与後にチロキシン濃度が上昇したため、甲状腺がその刺激に反応できると考えられます。Dでは上昇がみられませんが、この結果だけで反応しなかった原因までは確定できません。
問5 未知の三段階調節系へ応用する
次の未知の調節系を考えます。器官PはホルモンXを分泌して器官Qを促進し、器官QはホルモンYを分泌して器官Rを促進します。器官Rが分泌するホルモンZは、器官Pと器官Qを抑制します。
器官P → ホルモンX → 器官Q → ホルモンY → 器官R → ホルモンZ
ホルモンZは、器官Pと器官Qを抑制する。
器官RだけがホルモンYに反応できなくなり、十分な時間が経過したとき、X・Y・Zの濃度は正常時と比べてどうなると考えられますか。
- Xは増え、Yは増え、Zは減る。
- Xは増え、Yは減り、Zは増える。
- Xは減り、Yは増え、Zは増える。
- Xは減り、Yは減り、Zは増える。
問5の解答・考え方
正解:1。器官RがYに反応できない→Zが減る→器官P・Qへの抑制が弱まる→X・Yが増える、と最終段階から上流へさかのぼります。物質名が未知でも、促進と抑制の向きから判断できます。
まとめ
- フィードバックは、最終的な物質や作用の結果が、それより前の段階へ影響するしくみである。
- 負のフィードバックは、はじめの変化を打ち消す向きに働く。
- チロキシンは、視床下部→下垂体前葉→甲状腺の三段階で分泌が促進される。
- 血中チロキシン濃度が高いと上流の二つのホルモンの分泌が減り、低いと増える。
- 資料では、最終ホルモンの濃度から抑制の強弱を考え、上流へさかのぼる。
ホルモンが増え続けないしくみを、チロキシンで説明できますか。
できる! チロキシンが多いと上流を抑えて分泌を減らし、少ないと抑制が弱まって分泌を増やすんだ。どちらも一定範囲へ戻す向きに働くんだね!
Plus|変化を大きくするフィードバックもある
体内の調節には、最初の変化をさらに大きくする正のフィードバックもあります。ただし、恒常性の維持や多くのホルモン分泌量の調節では、変化を打ち消す負のフィードバックが基本です。まずは、どの物質がどの段階へ戻り、促進と抑制のどちらに働くかを図から判断できるようにしましょう。
参考資料
- 文部科学省『高等学校学習指導要領解説 理科編・理数編』:生物基礎におけるホルモン分泌量の調節と恒常性の扱いを確認。
- 数研出版『改訂版 高等学校 生物基礎』公式ダイジェスト:視床下部→下垂体前葉→甲状腺の促進経路と、チロキシンによる二か所への抑制を確認。
- 文部科学省「生物基礎 新テスト問題例」:血中チロキシン濃度が高い場合と低い場合の調節を確認。
- 大学入試センター「過去3年分の試験問題」:資料や実験結果から判断する出題形式を確認。確認問題は当サイト独自に作成。


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