食後に血糖濃度が上がることと、糖尿病で高血糖が続くことは同じではありません。糖尿病を血糖調節のしくみから捉え直し、Ⅰ型とⅡ型の違いを、インスリンの「分泌」と「作用」に分けて資料から考えます。
なんでなんで?! 糖尿病って、甘い物を食べすぎるとなる病気なの? Ⅰ型とⅡ型も、軽いか重いかの違い?
どちらも、その捉え方では正しくありません。血糖濃度を下げる調節のどこがうまく働かないかに注目すると、違いが見えてきます。
この記事でわかること
- 糖尿病を、慢性的な高血糖とインスリン作用の不足から説明できる
- Ⅰ型とⅡ型を、インスリンの分泌量と標的細胞の反応から区別できる
- 血糖濃度とインスリン濃度の資料から、読み取れることと断定できないことを分けられる
- 糖尿病を本人の努力だけの問題として決め付けない理由を説明できる
血糖調節の記事で学んだ、ランゲルハンス島B細胞・インスリン・標的細胞の関係を使います。ここではⅠ型とⅡ型の基本的なしくみを学習します。個人の診断、検査値の判定、治療法や食事法は扱いません。
まず結論|糖尿病は、血糖濃度を下げる調節が十分に働かない状態
糖尿病は、インスリンの不足や作用の低下によって、血糖濃度が高い状態が慢性的に続く病気です。Ⅰ型では主にインスリンを十分に分泌できないこと、Ⅱ型ではインスリンが効きにくいことと、分泌不足が関わります。Ⅰ型・Ⅱ型という名称は、軽症・重症の順番ではありません。

「食後に上がる」と「高い状態が続く」は違う
健康な人でも、食後には血液中へグルコースが吸収され、血糖濃度が一時的に上がります。その上昇をすい臓のランゲルハンス島B細胞が感知すると、インスリンの分泌が増えます。
インスリンは標的細胞に働き、グルコースの取り込みや利用、肝臓・筋肉でのグリコーゲン合成などを促します。その結果、血糖濃度は食事前の範囲へ近づきます。
糖尿病では、この血糖濃度を下げる調節が十分に働かず、高い状態が慢性的に続きます。したがって、食後に一時的に血糖濃度が上がったという一つの事実だけで、糖尿病とは判断できません。
以下のグラフや表は、調節の違いを考えるために単純化したモデルです。実際の診断は、医療機関で複数の情報を確かめて行われます。この記事の値から自分や他人の状態を判定しないでください。
Ⅰ型|ランゲルハンス島B細胞が壊れ、インスリンの分泌が著しく不足する
Ⅰ型糖尿病では、すい臓のランゲルハンス島B細胞が壊れ、インスリンをほとんど、または十分に分泌できなくなります。多くの場合は、免疫が自分のランゲルハンス島B細胞を誤って攻撃する自己免疫が関わります。
インスリンの情報が標的細胞へ十分に届かないため、食後に血糖濃度が上がっても、細胞へのグルコースの取り込みなどを十分に促せません。その結果、血糖濃度が下がりにくくなります。
Ⅰ型は、甘い物の食べ過ぎや運動不足だけで起こる病気ではありません。また、子どもだけの病気と決め付けることもできません。
この記事のランゲルハンス島B細胞は、すい臓のランゲルハンス島でインスリンを分泌する細胞です。次の単元で学ぶ免疫のB細胞(Bリンパ球)とは、同じ「B」が付いていても別の細胞です。
Ⅱ型|インスリンが効きにくく、分泌不足も関わる
Ⅱ型糖尿病では、インスリンが分泌されていても、標的細胞が十分に反応しにくくなることがあります。この状態をインスリン抵抗性といいます。加えて、ランゲルハンス島B細胞からのインスリン分泌が不足することも関わります。
標的細胞の反応が弱いと、すい臓がインスリンの分泌量を増やしても、血糖濃度が下がりにくい場合があります。ただし、Ⅱ型のすべての人でインスリン濃度が高くなるわけではありません。インスリンが効きにくい程度と、分泌が低下する程度は人によって異なります。
Ⅱ型の発症には、遺伝的な要因、加齢、生活環境など複数の要因が関わります。食事や運動との関係だけを切り取り、本人の努力不足と決め付けるのは不適切です。

資料は「分泌」と「作用」を分けて読む
血糖濃度だけを見ても、なぜ高くなったのかは一つに決まりません。そこで、インスリン濃度や、標的細胞がインスリンにどの程度反応したかという資料を組み合わせます。
- 血糖濃度の変化を見る。食後にどの程度上がり、その後どこまで戻ったかを確認する。
- インスリン濃度の変化を見る。血糖濃度の上昇に対して、分泌が増えたかを確認する。
- 標的細胞の反応を見る。同じ量のインスリンに対して、グルコースの取り込みなどがどの程度変化したかを確認する。
- 資料の限界を確かめる。示されていない原因や病名まで断定しない。

インスリンが多いのに血糖濃度が高いなら、インスリンは血糖濃度を上げたってこと?
いいえ。血糖濃度が上がったためインスリン分泌が増えたものの、標的細胞の反応が弱く、十分に下がらなかった可能性があります。二つの曲線の順序と、細胞側の資料まで確認しましょう。
確認問題
共通テストを意識したオリジナル問題です。すべて学習用のモデルデータであり、診断には使えません。
問1 食後の二つの資料を組み合わせる
健康な人を基準100とした相対値を、グルコース摂取の120分後に調べました。
| 群 | 血糖濃度 | 血中インスリン濃度 |
|---|---|---|
| 健康な群 | 100 | 100 |
| 群A | 175 | 35 |
| 群B | 165 | 210 |
資料から考えられる説明として最も適切なものを選んでください。
- 群Aではインスリン分泌の不足が、群Bではインスリンへの反応の低下が候補になる。
- 群Aではインスリンが血糖濃度を上げ、群Bではインスリンが分泌されていない。
- 群A・Bとも、この資料だけで病名と原因を一つに確定できる。
- 群Bはインスリン濃度が高いので、血糖調節に異常はない。
問1の解答・考え方
正解:1。群Aは血糖濃度が高い一方でインスリン濃度が低いため、分泌不足が候補です。群Bはインスリン濃度が高いのに血糖濃度も高いため、標的細胞の反応が弱い可能性があります。ただし、二つの測定値だけで実際の病名や原因を確定することはできません。
問2 標的細胞の反応を調べる
培養した細胞P・Qへ同じ濃度のインスリンを加え、加える前を100としてグルコース取り込み量を比べました。
| 細胞 | 添加前 | 添加後 |
|---|---|---|
| P | 100 | 190 |
| Q | 100 | 115 |
この実験から直接いえることとして最も適切なものを選んでください。
- QはPより、同じ濃度のインスリンに対する取り込み量の増加が小さい。
- Qをもつ人は必ずⅡ型糖尿病である。
- Qではインスリンがまったく受容されないことが証明された。
- Pではランゲルハンス島B細胞からのインスリン分泌がQより多い。
問2の解答・考え方
正解:1。調べたのは、同じ濃度のインスリンを加えたときの細胞の反応です。生体内の分泌量や病名は、この実験だけでは判断できません。
問3 Ⅰ型とⅡ型の違いを整理する
次の記述のうち、最も適切なものを選んでください。
- Ⅰ型は軽い糖尿病、Ⅱ型は重い糖尿病を表す。
- Ⅰ型は主にランゲルハンス島B細胞の破壊による分泌不足、Ⅱ型はインスリン抵抗性と分泌不足が関わる。
- Ⅰ型・Ⅱ型とも、甘い物を一度多く食べることだけで起こる。
- Ⅱ型では、インスリンが分泌されることはない。
問3の解答・考え方
正解:2。型は重症度の順番ではなく、成り立ちの違いです。Ⅱ型でもインスリンは分泌され、初期には高い値を示すこともあります。
問4 資料から判断できないことを選ぶ
ある人について、食後に血糖濃度が上昇し、120分後にも食前より高い値が測定されました。この情報だけから判断できないことを選んでください。
- 測定した120分後には、血糖濃度が食前より高かった。
- 血糖濃度が食後に上昇した。
- その人が糖尿病かどうか、またⅠ型かⅡ型か。
- 食前と120分後の血糖濃度に差があった。
問4の解答・考え方
正解:3。1・2・4は資料に直接示された事実です。しかし、一回の経時変化だけで、慢性的な状態、病名、型、原因を確定することはできません。資料から直接読めることと、追加情報が必要な判断を分けましょう。
問5 原因を一つに決め付けない
Ⅱ型糖尿病についての説明として最も適切なものを選んでください。
- 生活習慣だけで起こるため、遺伝的な要因や加齢は関係しない。
- 本人の努力不足だけが原因なので、血糖調節のしくみを考える必要はない。
- 遺伝的な要因、加齢、生活環境など複数の要因が関わり、インスリン抵抗性と分泌不足の程度も人により異なる。
- インスリン抵抗性があれば、インスリンは必ずまったく分泌されない。
問5の解答・考え方
正解:3。Ⅱ型を一つの原因だけで説明することはできません。生物基礎では、標的細胞がインスリンに反応しにくいことと、分泌不足の両方が関わりうると整理します。
まとめ
- 糖尿病は、インスリンの不足や作用低下により、血糖濃度が高い状態が慢性的に続く病気である。
- 食後の一時的な血糖濃度上昇だけでは、糖尿病とは判断できない。
- Ⅰ型糖尿病では主にランゲルハンス島B細胞が壊れ、インスリンの分泌が著しく不足する。
- Ⅱ型糖尿病では、インスリン抵抗性とインスリン分泌不足が関わる。
- Ⅰ型とⅡ型は重症度の順番ではなく、成り立ちの違いによる分類である。
- 資料では、血糖濃度、インスリン濃度、標的細胞の反応を分けて読み、示されていない原因や病名まで断定しない。
- Ⅱ型の発症には複数の要因が関わり、本人の努力だけの問題として決め付けない。
Ⅰ型とⅡ型は、何を比べると区別しやすいですか。
インスリンを十分に分泌できるかと、標的細胞がインスリンに反応できるかだね。型は軽い・重いの順番じゃないし、食べ方だけで人を決め付けちゃいけないんだ!
Plus|糖尿病はⅠ型とⅡ型だけではない
糖尿病にはⅠ型とⅡ型のほか、特定の遺伝子や別の病気・薬剤などに関係するもの、妊娠中に初めて見つかる糖代謝の異常などもあります。生物基礎ではⅠ型とⅡ型を中心に学びますが、現実の病気を二つだけに当てはめられるわけではありません。
参考資料
- 文部科学省『高等学校学習指導要領解説 理科編・理数編』:生物基礎における血糖濃度の調節と、資料を基に考察する学習範囲を確認。
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「糖尿病」:糖尿病の定義と、Ⅰ型・Ⅱ型の基本的な違いを確認。
- 日本糖尿病学会「糖尿病ってどんな病気?」:Ⅰ型におけるランゲルハンス島B細胞の破壊、Ⅱ型におけるインスリン作用低下と分泌不足を確認。
- 日本糖尿病学会「糖尿病診断基準」:Ⅰ型・Ⅱ型が成因による分類であることと、糖尿病が慢性高血糖を主徴とする疾患群であることを確認。
- 大学入試センター「過去3年分の試験問題」:複数の資料を組み合わせ、資料から直接いえることと考察を区別する出題形式を確認。確認問題は当サイト独自に作成。


コメント