種はどう分かれる?地理的隔離・生殖的隔離と種分化

地理的に分かれた集団が別々に変化し、生殖的隔離が成立する異所的種分化の模式図。体色は集団の違いの記号であり、色が違うだけで別種とは判断しない。 生物
図2 地理的に分かれた集団が別々に変化し、生殖的隔離が成立する異所的種分化の模式図。体色は集団の違いの記号であり、色が違うだけで別種とは判断しない。

同じ種類の生物が、山や海で隔てられたら、その瞬間から別の種になるのでしょうか。見た目や住む場所だけでは、種の分かれ方を説明できません。集団間の遺伝子の交流と、生殖のどの段階が妨げられるかに注目します。

ビオップ

山の向こう側に分かれて暮らしたら、もう別の種類になるの?

わや先生

離れたことと、生殖の仕組みが変わったことは分けて考えます。再び出会ったとき、子孫を通じた遺伝子の交流が続くかを見ていきましょう。

この記事でわかること

この記事のゴール

  • 地理的隔離と生殖的隔離を区別する
  • 接合前・接合後の隔離を、妨げられる段階から判断する
  • 交配資料を使って、言えることと言えないことを説明する
この記事の位置づけ:高校「生物」

高校「生物」の種分化を扱います。ここまでに学んだ突然変異・自然選択・遺伝的浮動が、分かれた集団の違いを生むことにつながります。

まず結論

ここを押さえよう

種分化は、もとの集団から新しい種が生じることです。地理的に離れることはきっかけの1つですが、それだけで直ちに別種になるわけではありません。生殖的隔離によって集団間の遺伝子の交流が妨げられることが、重要な手がかりです。

「同じ種」を、生殖から考える

生物の分類の基本となる単位が種です。生物学的種概念では、自然条件で互いに交配し、生殖能力のある子孫を残すことができ、他のそのような集団から生殖的に隔離された集団のまとまりとして種を捉えます。

生殖能力とは、できた子も繁殖して次の世代を残せることです。「子が生まれた」だけで終わらず、世代をつないだ遺伝子の交流が可能かを考えます。この考え方は有性生殖を行う生物で有用ですが、無性生殖の生物や化石へ、そのまま交配の基準を当てはめることはできません。

見た目の違いだけで種を決めるのではなく、自然条件での生殖と遺伝子の交流も手がかりにします。同種内でも雌雄や成長段階で姿が大きく違う場合があります。反対に、よく似た姿でも別種という場合があります。

生物学的種概念では、自然条件での交配と、子孫が繁殖して世代をつなぐことに着目する。架空の昆虫の模式例。
図1 生物学的種概念では、自然条件での交配と、子孫が繁殖して世代をつなぐことに着目する。架空の昆虫の模式例。(タップで拡大)

図は、親どうしの交配、子の成長、その子の繁殖を分けています。例えば同じ種の中でも、まだ成熟していない個体どうしはその時点で繁殖できません。しかし、その2個体だけの事情から別種とは判断しません。個体の年齢や健康状態ではなく、集団の間にどのような生殖の関係があるかを考えるための基準です。

また、別々の地域に住む集団が、今は出会う機会をもたない場合もあります。出会わないという事実だけと、生殖の仕組み自体に隔たりがあることは同じではありません。生態や交配実験、遺伝情報などを組み合わせて判断します。

地理的隔離は、集団が分かれるきっかけ

山脈、海、河川などの地理的な障壁により、生物の移動や交配が妨げられることを地理的隔離といいます。生物が行き来しにくくなると、子孫を通じて集団間で遺伝子が移る遺伝子流動も制限されます。

分かれた集団では、異なる突然変異が生じたり、環境に応じた自然選択が働いたり、遺伝的浮動が起きたりします。こうした変化が積み重なり、集団間に遺伝的な差が生じます。

地理的に分かれた集団が別々に変化し、生殖的隔離が成立する異所的種分化の模式図。体色は集団の違いの記号であり、色が違うだけで別種とは判断しない。
図2 地理的に分かれた集団が別々に変化し、生殖的隔離が成立する異所的種分化の模式図。体色は集団の違いの記号であり、色が違うだけで別種とは判断しない。(タップで拡大)

その後、障壁がなくなって再び出会っても交配しにくい、あるいは子が繁殖できない、といった状態が成立すれば、遺伝子の交流が妨げられます。このように新しい種が生じることが種分化です。地理的に離れた場所で進むものを異所的種分化といいます。

ただし、すべての地理的隔離が必ず種分化に至るわけではありません。隔離されていた期間や変化の程度によっては、再び接触した際に交配し、遺伝子の交流が再開します。

地理的隔離の図は、「分断される→別々に変化する→交流が妨げられる」という過程を圧縮して描いています。特に中央から右へ進む間に、世代を重ねた変化があります。山ができると同時に、生殖の性質まで切り替わるわけではありません。

同じ川でも、泳ぐ魚にとっては移動経路になり、川を渡れない陸上の小動物にとっては障壁になる場合があります。何が障壁になるかは生物の移動能力や生活と関わります。図中の地形の名前だけでなく、その生物が行き来できるかを読み取ります。

生殖的隔離を、受精の前後で分ける

生殖の過程に働き、集団間の遺伝子の交流を妨げる仕組みを生殖的隔離といいます。「住む場所が遠い」という事実だけとは区別し、繁殖時期や行動、配偶子の性質、雑種の生存・繁殖能力などを調べます。

出会い・交配、受精、雑種の成長・繁殖の流れと、生殖的隔離が働く段階。カエルは模式例で、特定の種の実験結果ではない。
図3 出会い・交配、受精、雑種の成長・繁殖の流れと、生殖的隔離が働く段階。カエルは模式例で、特定の種の実験結果ではない。(タップで拡大)

図の流れを使い、交配が起きないのか、受精しないのか、子が育たないのか、育っても繁殖できないのかを順に切り分けます。複数の隔離の仕組みが同時に働く場合もあるため、1つの結果だけから、ほかの仕組みが存在しないとは言い切れません。

接合前の隔離:受精に至らない

接合前の隔離は、受精して接合子ができる前に働きます。例えば、同じ地域でも繁殖する季節や時間が違う、求愛の鳴き声や行動が合わない、交尾器の形が合わない、といった場合です。配偶子が出会っても受精できない場合も、接合前に含まれます。

「出会えるか」だけでなく、「相手として選ぶか」「受精まで進むか」と段階を分けると、資料に記載された行動と結びつけやすくなります。

受精より前に働く隔離の模式例。繁殖時期や求愛行動の違い、配偶子が出会っても受精できない場合を区別する。架空の例であり、実在種の繁殖時期を示してはいない。
図4 受精より前に働く隔離の模式例。繁殖時期や求愛行動の違い、配偶子が出会っても受精できない場合を区別する。架空の例であり、実在種の繁殖時期を示してはいない。(タップで拡大)

左の季節の例では、片方が春、もう片方が秋に繁殖すれば、同じ場所にいても配偶子が出会う機会が少なくなります。中央の例では、求愛の合図が違えば、相手を繁殖相手として選びにくくなります。右の例は、配偶子が近くにあっても受精が成立しない場合です。

3つとも子ができないという結果は似ていますが、妨げられる段階は違います。繁殖時期をそろえる、求愛の合図を比べる、配偶子を接触させるなど、調べる方法も原因に合わせて変わります。

接合後の隔離:子が育たない・繁殖できない

接合後の隔離は、受精した後に働きます。集団間の交配で生じた雑種が正常に発生・成長できない場合や、成長しても生殖能力をもたない場合などです。

例えば、子が生まれて成体になったものの、正常な配偶子をつくれず繁殖できないなら、遺伝子の交流は次の世代へ十分に続きません。また、第1世代の雑種は繁殖できても、その子孫で生存や繁殖の能力が低くなる場合があります。

接合前か接合後かは、「受精が成立したか」を境に判断します。子ができるか、育つか、繁殖できるかを混同しないことが、交配資料を読むポイントです。

受精後に働く隔離の例。雑種が成長できない場合と、成長しても繁殖できない場合がある。
図5 受精後に働く隔離の例。雑種が成長できない場合と、成長しても繁殖できない場合がある。(タップで拡大)

図では、受精の成立から先を2つに分けています。左は生存・成長の段階、右は繁殖の段階の問題です。子が大人の姿になった写真だけでは、右側の生殖能力までは分かりません。正常な配偶子をつくれるか、その配偶子から次世代が生じるかという確認が必要になります。

雑種が生まれたという資料に出会ったら、「だから隔離はない」と結論せず、その後の資料を探しましょう。子や孫の世代まで追うことで、隔離がどの段階で働いているかが見えてきます。

具体例に、雌のウマと雄のロバの交配で生まれるラバがあります。ラバは成長できても、通常は子を残せません。雑種が生きて成長することと、その雑種が繁殖できることは別であり、接合後の隔離を考える例になります。

交配資料は、自然条件と人工条件を分けて読む

この架空の資料では、集団間に地理的な障壁はなく、出会う機会のある環境で十分な期間観察したものとします。また、各集団内では正常に繁殖することを確認しています。

架空の集団P・Q・Rの交配資料。自然条件での交配と、人工交配で生じた子の繁殖能力を分けて読む。
図6 架空の集団P・Q・Rの交配資料。自然条件での交配と、人工交配で生じた子の繁殖能力を分けて読む。(タップで拡大)

図6では、PとQは自然条件で交配しませんが、人工交配では繁殖できる子ができます。この結果は、自然条件で接合前の隔離が働いていることを示唆します。人工的に子をつくれたからといって、自然界での隔離がないことにはなりません。

ただし、表だけでは「繁殖時期が違う」のか「求愛行動が違う」のかまでは分かりません。どの条件をそろえ、何を変えて交配を試したかという追加資料が必要です。

PとRでは、自然条件で交配し、人工交配でも子ができますが、できた子は繁殖できません。こちらは、子ができた後の生殖能力に問題があるため、接合後の隔離に当たります。

観察結果から分かる隔離の段階と、その具体的な原因は別です。「交配しない」だけで原因を決めつけず、比較する条件を絞って確かめます。

Pどうしの交配は、実験の条件で正常に子ができ、その子も繁殖できるかを確認する比較対象です。もしPどうしでも子ができないなら、PとQの違いではなく、飼育条件や人工交配の方法に問題がある可能性も検討する必要があります。

実際の資料では、試した個体数や繰り返し回数も大切です。1回交配しなかったことと、十分な回数を試しても一貫して交配しないことは同じ証拠の強さではありません。高校の問題では、示された条件を根拠に、どの段階まで結論できるかを丁寧に述べます。

同じ場所でも種分化は起こりうる

地理的な障壁がなく、同じ地域で進む種分化を同所的種分化といいます。例えば植物では、染色体の組の数が増える倍数化が、生殖的隔離に関わることがあります。元の二倍体と、新しく生じた四倍体の間では、交配して生じる三倍体の減数分裂が正常に進みにくく、生殖能力が低くなる場合があるためです。

また、利用する資源や繁殖場所などの違いと交配相手の選び方が結びつくことで、同じ地域でも遺伝子の交流が制限される場合があります。「種分化には必ず山や海が必要」とは考えません。

減数分裂前のDNA複製と、ここでいう倍数化は区別しましょう。DNAのコピーができて姉妹染色分体が2本になることと、染色体の基本的な組の数が増えることは別です。以下では核相の記号との混同を避け、染色体の組の数で説明します。

二倍体と四倍体の正常な配偶子が受精し、三倍体になる模式例。棒1本は基本となる染色体1組全体を表す。三倍体では減数分裂で均等に分配しにくく、繁殖能力が低下する場合がある。
図7 二倍体と四倍体の正常な配偶子が受精し、三倍体になる模式例。棒1本は基本となる染色体1組全体を表す。三倍体では減数分裂で均等に分配しにくく、繁殖能力が低下する場合がある。(タップで拡大)

この図の棒1本は、基本となる染色体の1組全体を模式的に表し、実際の染色体1本を表すものではありません。二倍体は2組、四倍体は4組をもちます。正常に減数分裂が進めば、それぞれ1組、2組をもつ配偶子ができ、両者の受精によって1組+2組=3組の三倍体が生じます。3組では、減数分裂の際に対応する染色体を均等に分けにくいため、繁殖能力が低下する場合があります。

四倍体どうしなら、2組をもつ正常な配偶子どうしの受精で、4組をもつ個体に戻ります。元の二倍体とは交流しにくくても、新しい四倍体の集団内で繁殖が続けば、隔離された系統につながりえます。ただし、倍数化した個体が必ず集団として定着するわけではなく、実際に繁殖を続けられることが必要です。

適応放散は、さまざまな環境への分かれ方

共通祖先から分かれた系統が、異なる環境や資源の利用に適応して多様化することを適応放散といいます。例えば島ごとに利用できる餌などが異なると、それぞれの生活に適した形質の違いが生じることがあります。

種分化は「種が分かれること」、適応放散は「異なる生活のしかたへの適応を伴って多様化すること」に注目した言葉です。すべての種分化を、そのまま適応放散と言い換えるわけではありません。

共通祖先から分かれ、異なる資源の利用に適応して多様化する模式例。鳥の形と餌は理解のための架空の対応で、実在種の系統樹ではない。
図8 共通祖先から分かれ、異なる資源の利用に適応して多様化する模式例。鳥の形と餌は理解のための架空の対応で、実在種の系統樹ではない。(タップで拡大)

実際の例が、ガラパゴス諸島などにすむダーウィンフィンチ類です。共通祖先から多様化し、種子を利用するものや昆虫を利用するものなどで、嘴の形と餌の利用に違いが見られます。硬い種子を割ることと小さな昆虫を捕らえることでは、有利な嘴の形も異なります。個体が餌に合わせて嘴を作り替えたのではなく、世代を重ねて遺伝的な違いが受け継がれた結果として捉えます。

図では、共通祖先から分かれた鳥の系統が、種子・昆虫・花の蜜という異なる資源を利用する架空の例を示しました。枝分かれと嘴の違いを対応させて読みます。現在の鳥が餌を見て嘴を作り替える図ではなく、世代を重ねた系統の多様化です。

「形が違う」という情報だけでなく、共通の由来と、異なる生活への適応を合わせて捉えるのが要点です。次の記事では、このような共通祖先と枝分かれを表す系統樹を、見た目の並びに惑わされず読む方法へ進みます。

確認問題

以下は、この記事の内容をもとに作成したオリジナル問題です。まず自分で考え、解答で根拠を確かめましょう。

問1

「山脈によって1つの集団が2つに分かれたので、直ちに別種になった」という説明の問題点を述べよ。

問1の解答・考え方

地理的隔離だけでは、生殖的隔離が成立したとは限りません。再び接触すれば交配し、生殖能力のある子孫を残せる可能性があります。

問2

同じ地域に生息する2集団で、繁殖する季節が異なるため交配が起こらない。これは接合前と接合後のどちらの隔離か。

問2の解答・考え方

接合前の隔離。受精して接合子ができる前に、繁殖時期の違いが交配を妨げています。

問3

この架空の資料では、集団間に地理的な障壁はなく、出会う機会のある環境で十分な期間観察したものとします。また、各集団内では正常に繁殖することを確認しています。

次の資料のPとQ、PとRについて、それぞれ示唆される隔離の段階を答えよ。

架空の集団P・Q・Rの交配資料。自然条件での交配と、人工交配で生じた子の繁殖能力を分けて読む。
図6(再掲) 架空の集団P・Q・Rの交配資料。自然条件での交配と、人工交配で生じた子の繁殖能力を分けて読む。(タップで拡大)
問3の解答・考え方

PとQは接合前、PとRは接合後。PとQは人工交配で繁殖可能な子ができる一方、自然条件で交配しません。PとRの子は繁殖できません。

問4

問3のPとQが自然条件で交配しない原因について、この表だけから「鳴き声が異なるため」と断定できるか。理由を述べよ。

架空の集団P・Q・Rの交配資料。自然条件での交配と、人工交配で生じた子の繁殖能力を分けて読む。
図6(再掲) 架空の集団P・Q・Rの交配資料。自然条件での交配と、人工交配で生じた子の繁殖能力を分けて読む。(タップで拡大)
問4の解答・考え方

断定できない。表は自然条件で交配しないことを示すだけで、鳴き声・繁殖時期・繁殖場所などを比較した結果がないためです。

問5

植物の倍数化により、地理的な障壁がない地域で生殖的隔離が生じた。このような種分化を何というか。

問5の解答・考え方

同所的種分化。地理的な隔たりがなくても、生殖的隔離が成立して種が分かれる場合があります。

まとめ

学習のチェック

  • 地理的隔離は場所による隔たり、生殖的隔離は生殖過程による交流の妨げ。
  • 受精より前なら接合前、受精より後なら接合後の隔離。
  • 人工交配の成功だけで、自然条件での隔離がないとはいえない。
わや先生

離れた場所にいるかと、出会ったときに遺伝子の交流が続くかを、別々に確かめます。

ビオップ

山で分かれただけでは決まらないんだね。交配、受精、子の繁殖まで順に見てみるよ!

Plus:種の境界は、いつも一本の線で引ける?

もう少し先へ

自然界には、分化の途中にある集団や、限られた範囲で交雑する近縁種もあります。種の境界を判断するときは、交配の可否だけでなく、形態・生態・遺伝情報など複数の証拠を組み合わせます。教科書の定義は考える軸になりますが、自然のすべてを単一のテストで機械的に分けられるとは限らないのです。

参考資料

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