ウイルスが細胞の中へ入ったあと、体はどのように感染の広がりを抑えるのでしょうか。キラーT細胞が感染細胞を見分けて排除する流れを、抗体やNK細胞の働きと比較し、実験資料の読み方まで整理します。
なんでなんで?! ウイルスが自分の細胞の中に隠れたら、抗体だけで追い出せるの?
細胞の外にあるウイルスと、ウイルスに感染した細胞では、対応するしくみが異なります。何を相手に、どの細胞が働くのかを追ってみましょう。
この記事でわかること
- 細胞性免疫でキラーT細胞が働く流れ
- 抗体・キラーT細胞・NK細胞の役割の違い
- 実験条件と結果から、感染細胞を排除する働きを読み取る方法
自然免疫と体液性免疫に続いて、キラーT細胞が感染細胞を排除するしくみを学びます。抗体やNK細胞との役割の違いを整理し、臓器移植で起こる拒絶反応とのつながりも見ていきましょう。
まず結論|感染した細胞を排除する
細胞性免疫は、キラーT細胞などが働いて、ウイルスに感染した細胞などを排除する獲得免疫です。キラーT細胞はリンパ球の一種で、対応する抗原を示した細胞を認識して攻撃します。

なぜ、感染した自分の細胞を攻撃するのか
ウイルスは細胞の中に入り、その細胞のしくみを利用して増えます。感染細胞をそのままにすると、新しいウイルスが生じ、別の細胞へ感染が広がることがあります。
抗体は体液中などでウイルスに結合し、細胞への侵入を妨げる働きができます。しかし、通常、抗体が細胞内へ自由に入り込んで増殖中のウイルスを取り除くわけではありません。そこで、ウイルスの増殖の場となった感染細胞自体を排除する働きが重要になります。
感染細胞の排除によって、その細胞は失われます。それでも感染の広がりを抑えることにつながります。「体を守る働きだから、自分の細胞には一切影響しない」と考えないことが大切です。
抗原提示から、キラーT細胞の働きへ
樹状細胞は病原体などを取り込み、その一部を細胞表面に示します。このように抗原の情報をT細胞へ示すことを抗原提示といいます。抗原は、リンパ球によって認識され、免疫反応の対象になる物質です。
ヘルパーT細胞は抗原提示を受けて働き、ほかのリンパ球の活性化や増殖を助けます。細胞性免疫では、対応する抗原を認識するキラーT細胞が活性化・増殖し、感染細胞への攻撃を担います。樹状細胞によるキラーT細胞への抗原提示も関わりますが、ここでは細胞どうしの協力という大きな流れを押さえましょう。
感染細胞も、細胞内のウイルスに由来する抗原の一部を表面に示します。活性化したキラーT細胞は、それを手掛かりに感染細胞を認識して攻撃します。抗原を示す細胞がすべて樹状細胞である、というわけではありません。
ヘルパーT細胞はほかの免疫細胞の働きを助け、キラーT細胞は感染細胞を攻撃します。どちらもT細胞ですが、この記事で押さえる役割は異なります。
体液性免疫と細胞性免疫をつなげる

体液性免疫では、B細胞が形質細胞へ分化し、形質細胞が抗体を分泌します。抗体は対応する抗原に結合して、ウイルスの侵入を妨げたり、食細胞による排除を助けたりします。細胞性免疫では、キラーT細胞が感染細胞を攻撃します。
両者は別々の感染症だけを担当するのではありません。同じウイルス感染でも、体液中にある段階と細胞内で増える段階で、それぞれの防御が協力します。「ウイルスなら細胞性免疫だけ」と一つに決めないようにしましょう。
NK細胞も感染細胞を攻撃するが、自然免疫に属する
NK細胞も感染細胞やがん細胞などを攻撃するリンパ球です。ただし、NK細胞は自然免疫、キラーT細胞は獲得免疫に分類します。

生物基礎では、NK細胞は異常のある細胞にすみやかに対応し、キラーT細胞は特定の抗原を認識して増殖する、という違いを押さえます。どちらも「細胞が直接攻撃する」からといって、両方を獲得免疫の細胞性免疫に分類するのは誤りです。
臓器移植で起こる拒絶反応
他人から移植された組織や臓器の細胞が非自己と認識され、受け取った人の免疫によって傷つけられる反応を拒絶反応といいます。キラーT細胞などによる細胞性免疫が関わります。
移植された細胞は、ウイルスに感染していなくても攻撃の対象になり得ます。拒絶反応からは、免疫が単に「病原体がいるか」だけでなく、細胞に示された違いにも反応することが分かります。実際の拒絶反応には抗体が関わる場合もあるので、すべてをキラーT細胞だけで説明しないようにします。
確認問題
以下は当サイト独自の問題です。選択式はそれぞれ最も適切なものを一つ選んでください。
問1 攻撃対象を見分ける
細胞外のウイルスへの抗体の結合と、感染細胞へのキラーT細胞の攻撃が観察されました。適切な説明はどれですか。
- どちらも抗体が感染細胞の中へ入り、ウイルスを分解する。
- 抗体とキラーT細胞は、同じウイルス感染への防御に異なる段階で関わり得る。
- キラーT細胞は抗体を大量に分泌する。
- 抗体の結合があれば、細胞性免疫は働かない。
問1の解答・考え方
正解:2。細胞外のウイルスと感染細胞とを区別します。1は抗体の働き、3は形質細胞の働きとの混同です。4のような排他的な関係ではありません。
問2 細胞を除いた実験
同数の感染細胞を用意し、対応する抗原に対して活性化したキラーT細胞を加えました。他の条件は同じです。
| 条件 | 一定時間後に生存する感染細胞 |
|---|---|
| キラーT細胞あり | 20 |
| キラーT細胞なし | 90 |
この結果から最も支持されるものはどれですか。
- キラーT細胞は感染細胞の生存数を減少させることに関与する。
- すべての感染細胞が必ず排除される。
- キラーT細胞なしでは自然免疫も全く働かない。
- 減少した感染細胞はすべて抗体へ変わった。
問2の解答・考え方
正解:1。変えた条件と生存数の違いを結び付けます。20個残るので2は言えず、自然免疫全体についてもこの実験だけでは判断できません。細胞が抗体へ変わることもありません。
問3 特定の抗原に対応するとは
他の条件をそろえ、抗原Aに対応するキラーT細胞と標的細胞を混ぜました。
| 標的細胞が示す抗原 | 壊れた標的細胞の割合 |
|---|---|
| A | 75% |
| B | 5% |
この資料が支持する特徴を一文で説明してください。
問3の解答・考え方
解答例:抗原Aに対応するキラーT細胞は、標的細胞に示された抗原の違いによって攻撃の程度が異なる。同じ細胞数で抗原だけを変えた比較が根拠です。Bへの攻撃が必ずゼロになるとは、この数値からは言えません。
問4 NK細胞との区別
「感染細胞を直接攻撃する細胞は、すべて獲得免疫を担う」という説明は適切ですか。NK細胞を用いて説明してください。
問4の解答・考え方
適切ではありません。NK細胞は感染細胞などを攻撃しますが、自然免疫を担います。攻撃対象だけで自然免疫と獲得免疫を分類することはできません。
問5 拒絶反応から分かること
病原体に感染していない移植組織に対して、受け取った人のT細胞による攻撃が起こりました。最も適切な説明はどれですか。
- 免疫は病原体だけに反応するので、この観察はあり得ない。
- 移植組織を非自己として認識する免疫反応が起きたと考えられる。
- T細胞がすべてB細胞へ変化した。
- 拒絶反応は血液凝固と同じ反応である。
問5の解答・考え方
正解:2。移植組織の細胞の違いが免疫の認識対象になる点を読み取ります。1は対象を狭く捉えすぎています。3の細胞変化や4の同一視は本文の説明と一致しません。
まとめ
- キラーT細胞は対応する抗原を示す感染細胞などを攻撃する。
- 樹状細胞の抗原提示とヘルパーT細胞の働きが、獲得免疫につながる。
- 抗体による防御と感染細胞の排除は協力して働く。
- NK細胞は自然免疫、キラーT細胞は獲得免疫に属する。
- 移植組織への拒絶反応にも免疫が関わる。
最初の疑問に戻りましょう。細胞の中に入ったウイルスには、どう対応しますか。
キラーT細胞が感染細胞を見分けて攻撃するんだね。外にあるウイルスには抗体が働き、感染した細胞には別の防御が関わる、と分ければつながった!
Plus|免疫は、がん細胞にも関わる
ここからは発展です。体内で生じたがん細胞の一部も、免疫による認識や排除の対象になります。一方、がん細胞が免疫による攻撃を逃れることもあります。免疫の働きを治療へ利用する研究は、この両方を考えるところから進められています。「免疫があるからがんはできない」とは言えません。
参考資料
- 文部科学省・高等学校学習指導要領解説 理科編・理数編:免疫の働きの学習範囲。
- 英国免疫学会・Cells T CD8+:感染細胞の認識と排除。
- 大学入試センター・過去の試験問題:条件比較・資料読解を重視する学習の参考。問題は独自作成。


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