自然選択と遺伝的浮動の違いは?工業暗化・ボトルネック効果・中立説

自然選択は生存・繁殖の差、遺伝的浮動は偶然の偏りによって遺伝子頻度を変えうる。昆虫の体色と玉は、それぞれの仕組みを表す模式例。 生物
図1 自然選択は生存・繁殖の差、遺伝的浮動は偶然の偏りによって遺伝子頻度を変えうる。昆虫の体色と玉は、それぞれの仕組みを表す模式例。

遺伝する特徴が集団中で増えるのは、その特徴が生存に有利だからとは限りません。オオシモフリエダシャクの工業暗化を手がかりに、自然選択と遺伝的浮動を比べ、集団の遺伝的な構成が変わる仕組みを考えます。

ビオップ

数が増えた特徴は、全部「生き残るのに役立つ特徴」って考えていい?

わや先生

増え方が同じに見えても、原因は同じとは限りません。生存・繁殖の違いによる変化と、偶然による変化を比べましょう。

この記事でわかること

この記事のゴール

  • 工業暗化を、遺伝する違いと生存・繁殖の差から説明する
  • 自然選択と遺伝的浮動、ボトルネック効果と創始者効果を区別する
  • 分子進化の中立説と自然選択の関係を理解する
この記事の位置づけ:高校「生物」

高校「生物」の進化の仕組みを扱います。対立遺伝子・遺伝子型・遺伝子頻度の数え方を踏まえ、頻度を変える原因を比較します。ハーディ・ワインベルグの法則は、次の記事で順を追って扱います。

まず結論

ここを押さえよう

自然選択は遺伝する特徴に関わる生存・繁殖の差、遺伝的浮動は偶然の偏りによる変化です。同じ集団でも両方が働きえます。特徴が増えたという結果だけで有利だったと決めず、環境・生存率・繁殖・集団の大きさを確かめます。

自然選択は、生存・繁殖の差による変化

ある環境で、遺伝する特徴の違いによって、生き残りや子孫の残しやすさに差が生じることを自然選択といいます。生き残って繁殖に参加した個体の遺伝子は、次世代へ伝わります。そのため、世代を重ねると集団中の遺伝子頻度が変わりえます。

具体例として、イギリスのオオシモフリエダシャクの工業暗化を考えましょう。オオシモフリエダシャクはガの一種で、明るい地色に黒い斑点のある型と、全体に黒っぽい暗色型などがいます。この翅の色の違いは遺伝します。工業化に伴う環境の変化のなかで、集団中の暗色型の割合が高くなった現象が、工業暗化の代表例です。

樹皮などの背景が明るい場所では、明るい型のほうが背景に紛れ、鳥から見つかりにくくなります。一方、工業化によるすすで樹皮が黒ずむなど、休息場所の背景が暗くなると、暗色型のほうが目立ちにくくなります。そのため、鳥に食べられずに生き残る確率に差が生じ、暗色型が繁殖して次世代へ遺伝子を伝える機会が相対的に多くなります。これが世代を重ねて、暗色型の割合の増加につながります。

工業暗化を説明する順序

遺伝する翅の色の違いがある → 背景によって目立ちやすさが異なる → 鳥による捕食を受ける確率が異なる → 生存・繁殖を通じて、次世代の型の割合が変わる。

すすでガの体が黒く染まったのでも、暗い環境に合わせて個体が自ら翅の色を変えたのでもありません。暗色型を生じさせる遺伝的変異の出現と、その変異が自然選択によって集団中に広がることは、区別して考えます。必要に応じて有利な突然変異が起こる、という説明にはしないでください。

その後、大気汚染が軽減したイギリスの地域では、暗色型の割合が低下しました。汚染の少ない環境で行われた野外実験でも、暗色型が明るい型より鳥に捕食されやすい結果が得られています。有利な型は環境によって変わるのであり、暗色型が常に「優れた型」というわけではありません。なお、型の個体数の割合と対立遺伝子の頻度は同じ量ではなく、両者を数値として置き換えるには遺伝の仕組みも考える必要があります。

図1の昆虫は自然選択の仕組みを示す一般的な模式図で、オオシモフリエダシャクの形や実際の個体数を描いたものではありません。背景と体色による目立ちやすさの違いを、上の具体例に結びつけて読みましょう。工業暗化の変化を、わずか1世代で完了した出来事と捉えないことも大切です。

具体例の参考:リバプール大学リポジトリ:工業暗化を生じさせた遺伝的変異の研究/Cookほか(2012):鳥による捕食を検証した野外実験(米国国立医学図書館PMC)。

自然選択は生存・繁殖の差、遺伝的浮動は偶然の偏りによって遺伝子頻度を変えうる。昆虫の体色と玉は、それぞれの仕組みを表す模式例。
図1 自然選択は生存・繁殖の差、遺伝的浮動は偶然の偏りによって遺伝子頻度を変えうる。昆虫の体色と玉は、それぞれの仕組みを表す模式例。(タップで拡大)

次世代への遺伝的な貢献の程度を適応度といいます。単純な問題では、生存率や平均的に残す子の数などを用いて比較します。長生きしても子孫を残せなければ、必ず適応度が高いとはいえません。

自然選択で大切なのは「強さ」ではなく、その環境でどれだけ次世代へ遺伝子を伝えるかです。環境に合った形質を備えていることを適応といいますが、ある環境で有利な形質が、どの環境でも有利とは限りません。

自然選択を説明するには、①個体間に違いがある、②その違いの少なくとも一部が遺伝する、③違いによって次世代への貢献に差がある、というつながりが必要です。例えば、栄養不足で一時的に小さくなった個体が多いだけでは、遺伝する形質に自然選択が働いたとは結論できません。

適応度を比べる例として、ある条件で1個体が平均して残す繁殖可能な子が、型Xで4個体、型Yで2個体だったとします。Xを1とした相対的な値なら、Yは2÷4=0.5です。ここでの数値は、体の大きさや運動能力を採点したものではなく、次世代への貢献を比較するための値です。

体色の図でも、背景が暗くなっただけで全個体が黒くなったと読まないようにします。暗い個体と明るい個体の違いが先にあり、その環境で生き残る確率に差が生じ、繁殖を通じて次世代の割合へつながる、と順に説明します。

遺伝的浮動は、偶然による変化

生存・繁殖に有利か不利かとは別に、偶然の偏りによって遺伝子頻度が変わることを遺伝的浮動といいます。親がつくる配偶子のうち、実際に次世代をつくるものは一部です。その一部を取り出すと、元の割合から偶然ずれることがあります。

赤玉と青玉が半分ずつ入った袋から、見ずに少数の玉を取り出す場面を考えましょう。取り出すたびに、必ず赤と青が半数ずつになるわけではありません。玉の色に有利・不利がなくても、割合はずれます。

遺伝的浮動による割合の揺れは、一般に小さな集団ほど大きくなります。同じ条件で繰り返しても、ある集団ではAが増え、別の集団では減ることがあります。ある対立遺伝子が失われたり、頻度が1になって固定されたりする場合もあります。

元のAとaの割合が同じでも、少数を無作為に取り出すと割合が偏ることがある。大きさの違う袋は抽出数の違いを表し、実際の生物集団そのものではない。
図2 元のAとaの割合が同じでも、少数を無作為に取り出すと割合が偏ることがある。大きさの違う袋は抽出数の違いを表し、実際の生物集団そのものではない。(タップで拡大)

図の玉は対立遺伝子の型の模型です。取り出すときに特定の色を選ばなくても、5個ならAが4個、aが1個という結果はありえます。その比を次世代のもとにして、また無作為に取り出す操作を繰り返すと、割合はさらに変化します。どちらの色が増えるかは、毎回同じ方向に決まっていません。

ここで「少数ほど揺れやすい」というのは、個数そのものではなく割合の揺れです。Aが1個多かった場合、全体が10個なら10ポイントの差ですが、100個なら1ポイントの差です。多数を取り出せば毎回ぴったり元の比になるわけではないものの、割合は元の値に近くなりやすくなります。

ボトルネック効果と創始者効果

ボトルネック効果は、集団の個体数が一時的に大きく減少した際、残った少数個体の遺伝的な構成が、その後の集団に強く反映されることです。個体数が回復しても、失われた対立遺伝子まで自動的に戻るわけではありません。

創始者効果は、少数の個体が移住するなどして新しい集団をつくる際、その個体たちの遺伝的な構成が新集団に反映されることです。元の集団を、偏りなくそのまま縮小した構成になるとは限りません。

個体数の急減に伴うボトルネック効果と、少数個体が新しい集団をつくる創始者効果。図は割合の偏りを示す模式例で、実測値ではない。
図3 個体数の急減に伴うボトルネック効果と、少数個体が新しい集団をつくる創始者効果。図は割合の偏りを示す模式例で、実測値ではない。(タップで拡大)

ただし、「個体数が減った」という情報だけで原因を遺伝的浮動に限定してはいけません。特定の遺伝的特徴をもつ個体が生き残りやすかったなら、自然選択も関わりえます。自然選択と遺伝的浮動は、同じ集団で同時に働くこともあります。

2つを見分けるには、どの時点の集団に注目しているかを読みます。「もとの集団が急減し、その生存個体から回復した」ならボトルネック、「少数が別の場所で新しい集団を始めた」なら創始者効果です。どちらも、少数がもとの多様性を偏りなく代表するとは限らないという点で共通しています。

例えば、移住した少数にAをもつ個体が偶然多かったなら、移住先でAが多い理由を、すぐに「島ではAが有利だから」と説明できません。出発時の構成という別の説明があります。自然選択を論じるには、移住後の繁殖や生存の資料も必要です。

中立説は、自然選択を否定する考えではない

木村資生が提唱した分子進化の中立説は、分子レベルで進化の過程に定着する変化の多くを、自然選択に対して中立な変異の遺伝的浮動によって説明する考えです。「すべての突然変異が中立」「適応に自然選択は関わらない」という主張ではありません。

特徴の増減を説明する際は、適応の例か、分子の変化か、どの資料を対象としているのかを確認します。増えたという結果だけで有利と決めつけず、原因を分けて考えましょう。

変異が生存・繁殖に与える影響に着目した整理。中立な変異は偶然に増減しうる。自然選択の影響がある変異にも、遺伝的浮動は同時に働きうる。
図4 変異が生存・繁殖に与える影響に着目した整理。中立な変異は偶然に増減しうる。自然選択の影響がある変異にも、遺伝的浮動は同時に働きうる。(タップで拡大)

図の左右は、生存・繁殖への影響に着目した整理です。右側の中立な変異にも、子へ伝わるかどうかの偶然があります。頻度が上がる場合も、失われる場合もあり、「中立だから必ず残る」という意味ではありません。

また左側にも偶然は働きます。有利な変異が新しく生じても、その個体が偶然子を残さなければ失われることがあります。自然選択と遺伝的浮動を、互いに排他的な2種類の集団の話とせず、同じ集団で働きうる要因として捉えると、資料の解釈が柔軟になります。

確認問題

以下は、この記事の内容をもとに作成したオリジナル問題です。まず自分で考え、解答で根拠を確かめましょう。

問1

同じ環境で、小さな集団を複数つくった。ある対立遺伝子は、集団によって増えたり減ったりした。生存・繁殖への影響はないものとする。この変化の主な仕組みを答えよ。

問1の解答・考え方

遺伝的浮動。生存・繁殖の有利・不利ではなく、小さな集団で偶然の偏りが生じたと考えられます。

問2

少数の個体が離島へ渡って新しい集団をつくり、元の集団とは遺伝子頻度が異なった。少数個体の偶然の偏りによる効果を何というか。

問2の解答・考え方

創始者効果。元の集団全体の個体数が急減したという記述ではないため、この場面ではボトルネック効果よりも創始者効果が適切です。

問3

オオシモフリエダシャクの工業暗化の説明として最も適切なものを選べ。

  1. すすが付着して黒くなった翅の色が、そのまま子に遺伝した。
  2. 暗い背景で暗色型が鳥に見つかりにくくなり、生存・繁殖を通じて割合が増えた。
  3. どの環境でも、暗色型は明るい型より必ず多くの子を残す。
  4. 暗色型が必要になったため、全個体に同じ突然変異が生じた。
問3の解答・考え方

2。翅の色の遺伝的な違いが、環境に応じた捕食されやすさの差につながります。個体の色が目的に合わせて変わるという説明ではありません。

問4

分子進化の中立説について、次の説明の誤りを指摘せよ。「中立説によれば、すべての突然変異は中立であり、自然選択は生物の適応に関わらない。」

問4の解答・考え方

中立説は、分子レベルで定着する変化の多くを中立な変異の遺伝的浮動によって説明する考えです。すべての突然変異が中立であるとも、適応に自然選択が関わらないとも述べていません。

問5

集団中でAの頻度が上昇した。この結果だけから「Aは自然選択で有利である」と断定できない理由を答えよ。

問5の解答・考え方

遺伝的浮動や、Aを多くもつ個体の移入などでも頻度は上昇しうるためです。自然選択を判断するには、遺伝する特徴と生存・繁殖の差との関係などの情報が必要です。

まとめ

学習のチェック

  • 自然選択では、環境と遺伝する特徴によって生存・繁殖に差が生じる。
  • 遺伝的浮動は偶然の偏り。小さな集団ほど割合が揺れやすい。
  • 中立説は分子進化の説明であり、適応における自然選択を否定しない。
わや先生

頻度の変化という結果と、その原因を分けて説明しましょう。

ビオップ

増えたから有利とは限らないんだね。偶然の偏りや集団の大きさも確認するよ!

Plus:保全では、個体数だけを見ない

もう少し先へ

絶滅の危機から個体数が回復しても、かつて集団にあった遺伝的多様性がそのまま戻るとは限りません。新しい突然変異や他集団との遺伝子の交流などがなければ、失われた対立遺伝子は戻らないためです。保全を考える際に「何頭いるか」と「どれだけ遺伝的な違いがあるか」を別々に見る理由が、ここにつながります。

参考資料

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